パワーハラスメント(Power harassment) とは、組織における権力(パワー)をかさにきての嫌がらせという意味の用語である。日本語として定着したセクハラから作られた和製用語である。会社などで、職権などの権力や地位、人間関係を背景にし、人格と尊厳を傷つける言動を繰り返し行い、就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与える行為のこと。
取引先や顧客の自宅なども含む「仕事をする場所」における、実質的な力関係、すなわち 職責、肩書き、人間関係を背景にした、業務上の合理性や必要性がない言動によって、相手の人格や名誉を傷つける行為、仕事を続けるうえでの支障を生じさせる行為のことである。
岡田康子(本問題のコンサルタント 株式会社クオレ・シー・キューブ代表)が2002年秋頃に造語した和製英語であるが、現在では過労死(karoshi)と共に日本の労働問題から発生した言葉の一つとして、海外で日本の労働状況を伝える場合にこの言葉が用いられる事も見られる。
今までは「上司の部下に対する指導」という名目で表面化することは極めて稀であったが、ここ最近ではクローズアップされ、問題となっている。家庭内暴力がドメスティックバイオレンスとして犯罪であるのに対して、会社内暴力は見逃されるという考え方ではなく、会社内暴力もオフィス・バイオレンスとして犯罪化し対処していく方向にあると同時に、パワハラは部下の能力や落ち度の問題だけではなく、上司のマネジメント能力やダイバーシティー(職場内多様性)の無さの問題と考えられるようになってきている。上司が信頼されていない会社で最もモチベーションが下がり、それを補うために懲罰的な叱責がなされるが、かえってそれが会社にとって致命的なミスにつながるということが明らかになっている。
一般的には、役職などが上層の者が下層の者に対して、あるいは正規雇用者(正社員)が非正規雇用者(アルバイト・パート)に対して、その地位と職権を利用して嫌がらせをすることと考えられているが、専門力を利用すれば、部下から上司へ、あるいは同僚から同僚へ、年上の後輩から年下の先輩へ、年上の同僚から年下の同僚へも起こりうる。パワーハラスメントは略して「パワハラ」という。欧米では、モラルハラスメントとして、英語ではブリー( Bully いじめ )という表現が一般的である。教育機関において教育者(教師や大学教授)から生徒や学生、部下の教職員へ起こりうるものはアカデミックハラスメントという。嫌がらせの理由が会社の「リストラ」によるものであったりすると、対象者がある条件を持つもの(例:労働組合の加入者等)に限定され、別の問題をはらむこともある。そして、その被害者は精神的な傷害を被ることが多い。
男女間でのパワーハラスメントの中には性的ないやがらせが多く存在するために、パワーハラスメントの概念内にセクシャルハラスメントの概念も含まれると言ってよい。かつては多くの職場は圧倒的に男性優位で、女性は出世コースから排除されていたため、男性上司から女性への交際の強要や性的な接触がしばしば起こり、かつてはこうした行為をなかば当然視し、女性が訴えても周囲からは女性が悪いとみられる風潮があった。このため女性が退職に追い込まれることも多く、こうしたケースが「セクシャルハラスメント」として問題になり、現在では是正されつつある。なお、パワーハラスメントの中には男性間で発生する性的なモラルハラスメント(例:男性上司から男性部下への性的侮辱)もあり、こうしたものもセクシャルハラスメントに含まれる。
パワーハラスメントの定義・指針を策定した9県は、岩手(2005年)、大分(2006年)、佐賀(2007年)、熊本(2007年)、富山(2008年)、兵庫(2009年)、和歌山(2009年)、静岡(人権啓発センター:2009年、人権問題に関する調査・職場における人権問題)、沖縄県教育委員会(ホームページでもパワハラ定義を公開2010年)。岩手、大分、佐賀、熊本の4県は、「コンプライアンス基本方針」や、セクハラも含む「ハラスメント要綱」などの一部に盛り込んだ。 厚生労働省指定法人21世紀職業財団が
などパワハラの類型を提示し、啓発ポスター等に取り入れている。 。その他、大学の基礎法学者の団体がホームページにおいて、「多数の面前での叱責」や「人格否定」、「客観的な人事考課をしない」などパワハラの具体的定義を30項目(簡易版12項目)作成している。
パワハラを受けたことが原因で、さらに無視や仲間はずれなどの職場いじめに発展する場合もある。大抵は、パワハラには「仕事上のミスがあったから仕方ない、悪意はなかった、冗談のつもりだった」などという加害者側の言い分が付属するが、叱責、教育や研修という名目で行われる場合ならば、いかなる方法をとっても許されるのではなく、暴力的手段や非合理的手段は許されない。例えば、正当な叱責の場合でも、大声で怒鳴りつける、多数の面前での見せしめ・懲罰的な「公開叱責」や人格否定など方法を間違えば違法性が生ずる。。正当な業務の範囲内の叱責でも受け手は嫌だと感ずるが、ハラスメントの場合はその程度が受忍限度を超えてくる。すなわち、受け手が適切な業務行為を超えたハラスメントであると感じれば問題となる。また、被害者が怪我だけでなくうつ病、PTSDといった精神疾患を発症すれば、労災申請がされうるだけでなく被害届が出され傷害罪や暴行罪を構成する可能性も出てくる。いずれの場合も、被害者が自ら行動を起こさなければ自主退職を余儀なくされてしまう。実は、自主退職をさせるための手段としてパワハラを用いている企業=ブラック企業もある。自ら会社が嫌になって辞表を書いて退職するように仕向けることで(=会社都合による解雇をしないことで)、会社側は国からの補助金を維持でき退職金・経費を節約できる。自主退職勧告自体が違法行為であるが、労働者でそれを知っている人は少ない。マスコミが会社のリストラを当たり前の仕方ない出来事の如くに報道したために、会社都合による一方的なリストラも仕方ないことだとあきらめる風潮があるが、こうした消極的態度は日本社会に特有であり、実際には、会社による一方的解雇には4つの要件(4要素とする裁判例もある)が必要である。@解雇をしないと会社が倒産してしまうほど逼迫している場合、A新規採用を一切停止する、B役員報酬を3割カットする、C経営責任を問うなどの要件と共に初めて整理解雇=リストラができる。パワハラを受け自主退職を強要され続け、最悪の場合、自殺に追い込まれてしまう事例も見られる。
1990年代までは具体的な対策が取られる事はあまり無く、概念が広く認知されているとも言い難かったため、被害に遭っている本人もそれが(叱咤激励、教育の一環であり)パワーハラスメントだと認識していなかったり、加害者にもパワハラの故意がないケースが多かった(ただし、職場内暴力についてはパワハラの認識以前に暴行罪に問われることは明らかである。上司の暴行により傷害を負った部下が上司を訴えることは古くからしばしばあった)。
だが近年、被害者がPTSDやうつ病と診断されるようになると、2000年ころから判例の動向に変化がみられ、司法界でも原則パワーハラスメントは許さないという判断になってきている。叱咤激励のつもりで部下を多少強い口調で叱責したところ、それがパワーハラスメントであると判断され上司がショックを受けた事例がある(さいたま地方裁判所、調停)。指導であっても公開処罰や人格否定は許されず、タイミングや場所、言葉を慎重に選ばないとならないとされている(Z医科大学事件、東京地方裁判所判決)。また、昇進や人事考課も、会社の裁量権は無条件ではなく、社会通念に照らした合理性が必要であるとされる。
被害者側の対処法としては、メモ(感情をこめない事実だけのメモ)や音声記録をし証拠収集を行う。精神科の医師に診察をしてもらう。診察の記録や診断書は保存しておく。そのうえで、法テラスや法務省人権擁護局などの外部機関、合同労働組合(社内組合では無力であることが多い)、労働基準監督署や都道府県労働局、警察署の生活安全課に相談する。総務省行政相談窓口(労基署の対応を促す)も活用するとよい。労基署では、局長による助言や斡旋を試みてもらう。労基署の助言に罰則はないが新聞沙汰になる可能性もあり体面上それを拒めない。ハラスメントの労働相談が同一会社から複数寄せられれば、その会社は監督署からマークされ、申告監督・臨検の候補になる。
外部機関や労働組合の介入で交渉を行い解決する場合もあるが、会社側があくまでも認めない場合、裁判所の労働審判(3回の審理)や民事裁判、刑事裁判へと進んでいく。この過程で行われることがある退職強要に関しては退職しない理由を示す必要はないし、呼び出しに応ずる必要も退職届にサインする必要もない。
セクハラが男女雇用機会均等法によって規制、意識の浸透が行われたことから、職場のいじめを少なくするためにパワハラも法律による規制が必要、と言う意見がある。